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Thursday, October 22, 2020

利益はまるで育児放棄された問題児 - PR TIMES

著者: ハーマン・サイモン、山城和人

利益がビジネスの成功を計るうえで最も重要な指標であることを否定する人は、殆どいないであろう。コロナ禍にある現在、その利益の重要性は更に増していると言える。過去に多くの利益を生み出しその蓄えのある企業は、現在直面している危機により良く対処することができるし、将来に向けて多くの利益を創出できる企業は、危機下において増加した債務をより早く返済することが可能だ。このように、利益は極めて重要であるにも拘らず、純粋に利益をテーマにした経営学の本がこれまで出版されていないことは驚きである。本稿の著者の一人であるハーマン・サイモンが新たに執筆した"Am Gewinn ist noch keine Firma kaputtgegangengangen" " No company has broken down in terms of profit yet) (未だ利益によって破綻した企業はない)は、純粋に利益をテーマとして取り扱った最初の経営書ではないかと思う。

はじめに、利益について定義したい。 我々が主張する利益の定義とは、「従業員、サプライヤー、銀行やその他の債権者、及び国に対する税を全て支払った上で残存する利益」である。つまり、税引き後の利益こそが、我々が定義する利益となり、EBIT (利子・税引き前の利益)やEBITDA (利子・税引き・減価償却費前の利益)は、利益ではない。一方で、近年は多種多様な利益が生まれており、利益の意味は曖昧なものとなっている。例えばUberは2018年に38億ドルの損失を出しているが、その一方で9.4億ドルの「コアプラットフォーム貢献利益」と呼ばれる利益を報告した。他にもオフィスレンタルサービスのWeWorkは、18億ドルの売上に対して、19億ドルの損失を計上したが、諸々のコストの中でマーケティング上の支出を考慮しない「コミュニティ調整EBITDA」と呼ばれる利益をつくり出した。最近ではEBITDaL (aL: リース費用後)やEBITDAR (R: リストラ費用前)と呼ばれる利益も生まれている。このように多種多様な意味を持つ利益が生まれている状況について、ドイツの新聞記者のGeorg Giersbergは「コスト前利益」という皮肉を込めた言葉で表現している。これらの利益もどきの指標は、本来の利益とは異なるため、利益と呼ぶべきではない。

日本とドイツビジネスの利益低迷

ここからは、利益を本来の定義に基づいて考えてみよう。一般の人は利益についてどのように考えているのだろうか。我々は、ビジネスパーソンに対し、売上高からコストと税金を差引いたとき、何パーセントが利益として残っているかを問うアンケートを行った。その回答結果は、平均で22.8%であった。しかしながら、これは、現実のビジネスの状況と大きく乖離している。2003年から2016年における日本企業の税引き後の純利益率はわずか2.4%しかなく、企業の大半は資本コストすら稼げていない。OECD23カ国の中で、日本の利益率は最下位に位置し、次いでドイツの3.3%の順となる。OECD23カ国全体の利益純率平均は5.7%であり、ドイツ企業の平均より2.4%、日本企業の平均より3.3%高い。

大企業に絞った場合も、日本とドイツの状況は良くない。2019年のFortune Global 500リストに掲載された大企業について、日本の企業52社は平均5.2%の純利益率で、ドイツの企業29社は平均4.4%となる。Fortune Global 500社全体の平均値は6.6%であるため、これと比較すると日本は1.4%、ドイツは2.2%低い利益率しか獲得できていない。特に利益の大きいグローバル企業数社と比較すると、状況は更に深刻となる。前述の日本の大企業52社とドイツの大企業29社が報告した2018年の純利益は、それぞれ1622億9000万ドルと889億8000万ドルである。一方でAppleとGoogleの2社の合計純利益は1792億2000万であり、日本の52社、ドイツの29社よりも大きい。また、利益率に着目すると、Fortune Global 500社のうち、純利益率が20%を超えている企業は33社であった。33社に含まれる日本企業は東芝(27.4%)の1社のみで、ドイツ企業もDeutsche Börse AG (32.3%)の1社のみである。但し、東芝の純利益は半導体事業の売却によって得た特別利益であり、本業のビジネスにより生み出されたものではないため、日本においては利益率20%以上の企業は実質的には存在しないとみなすべきである。こういった状況に鑑みると、日本とドイツ企業の利益率の現状は悲惨であるが、別の見方とすれば、より大きな利益改善の機会を有しているともいえる。日本とドイツにおいては“利益は育児放棄された問題児のような存在である”という例えは、決して誇張ではない。

利益の最大化

もし、「私は利益の最大化こそがすべてだと考える」などといったなら、反感を買い、周りにかなりの敵を作ることになるだろう。相手が教師や弁護士、役人であっても、政治学者や社会学者、哲学者であっても、その結果に大差は無い筈だ。企業の従業員や労働者はもちろん同意しないし、経営者や起業家からも、もろ手を挙げての賛同は得られないのではないかと思われる。今日、“利益の最大化“ほど、人の癇に障るリスクを抱えたものは殆どなく、他に思い当たるのは“株主価値“くらいであろう。特に日本とドイツ企業の利益の悲惨な実態を考慮すると、利益に対して上述のような否定的な姿勢を示している状況ではないはずだが、別の見方をすると、そういった姿勢であるからこそ、今の事態を引き起こしているとも言える。我々の印象では、日本とドイツにおいては、成長、売上高、販売数量、市場シェア、雇用、競合への対策等が企業の目標として利益よりも強い役割を果たしているように思える。

“利益の最大化“は浪費の対義語として捉えるべきである。何故なら、“利益の最大化”は最小限の資源の使用で一定のパフォーマンスの達成を目指すか、あるいは、一定の資源投下により最大限のパフォーマンスの達成を目指すことを意味する。理論上、利益の最大化は限界費用と限界収入の一致にあるが、これはまさにその点を言い表している。“利益の最大化“は浪費の最小化であり、資源の節約であるため、社会福利の増進にもつながると言える。

“利益の倫理性“についての考え方も、ここまで述べてきた点と矛盾しない。ハーバード・ビジネス・スクールの学長であるニチン・ノーリアは、「ビジネスリーダーの最初の倫理的責務は、利益を生み出すことである」と述べている。同様に、ピーター・ドラッカーは、「社会的責務と利益の拡大は相反するものではない。社会に害となるのは利益を十分に確保しているビジネスではなく、むしろ確保できていないビジネスである」と述べている。我々は株主価値の議論もこれに類似しており、異なるステークホルダー間の対立やゼロサム・ゲームを前提とすべきではないと考える。企業が十分な利益を得ているとき、従業員、サプライヤー、銀行、地方自治体、国家も同様に満たされているといえる。ロバート・ボッシュは「お金がたくさんあるから高い給料を払っているのではない。むしろ、高い給料を払っているからお金があるのだ。」と述べている。逆もまた然りで、企業が損失を出した場合、その結果として従業員、サプライヤー、銀行、地方自治体、国家が苦しむことになる。

近年、”株主価値”の概念そのものが疑問視されている。2019年8月に開催された米ビジネス円卓会議において、「企業の目的」に関する宣言の刷新が発表され、世間の注目を集めた。この会議には、米大手企業のCEO188人が参加しており、そのうち181人がこの新たな宣言に賛同している。その中には米最大手銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ディモンCEOや、世界の2大投資家であるブラックロック・インクとバンガード・グループ・インクのトップも含まれていた。一方で、ブラックストーングループの ステファン・シュワルツマンやGEのラリー・カープ CEO など、著名な CEO 数名は反対票を投じた。新たな「企業の目的」では「我々は、全てのステークホルダーに対する責務を全うする」と述べられ、そのステークホルダーを個別にリストしている。この米ビジネス円卓会議の声明は、自明の企業理念をあえて語っているに等しいと考える。2020年の初めには、世界経済フォーラムが「ダボス・マニフェスト」と称して以下の類似する声明を出している。「企業の目的は、全てのステークホルダーに持続的な価値を創造することである。この持続的な価値創造により、企業は株主だけでなく、従業員、顧客、サプライヤー、地域、社会全体など、全てのステークホルダーに貢献することになる」。米ビジネス円卓会議と世界経済フォーラムにおけるこれら2つの声明は、ビジネス精神のオマージュに過ぎない。過去現在問わず、全ての企業はステークホルダーに対して貢献するよう促されている。

ステークホルダーに対する貢献と、株主に対する貢献は、矛盾するものではない。株主とステークホルダーの双方に貢献するには、2つの決定的な要件を満たさなくてはならない。第一に、利益と株主価値は真っ当な方法で生み出される必要がある。ハーバード・ビジネス・スクールの学長を1919年から1942年まで務めたウォレス・ブレット・ドーナムは、以下のように述べている。「私たちは、まともな利益を真っ当なやり方で生み出すリーダーを育てたい。」確かに、全ての経営者がこの格言に従っているわけではないという現状がある。第二に、利益志向・株主価値の追求は常に長期的な視点に立って行われる必要がある。しかしながら、何が短期で、何が長期かの区別は明確ではなく、熾烈な議論の種となっている。

日本とドイツの利益低迷の原因

現在の日本とドイツの利益低迷の原因は何であろうか。その答えは、依然、推察の域を出ないが、意味ある考察を促すものとなるだろう。我々はその大きな原因の一つが、「売上の最大化」のような誤った目標にあると考える。過去に行った調査で、企業戦略における最優先事項が利益であると答えた経営者の割合は、日本とドイツにおいては全体のわずか4分の1程度であり、日本が調査対象国の中で最も低く、次いでドイツという結果となった。また、両国において全体の約半数の経営者は販売数量を最優先として認識していた。ドイツのある高級車メーカーの取締役は以下のように述べている。「市場シェアが0.1%低下したら、企業の誰もが気にするだろう。逆に利益が20%落ちたとしても、誰も気にすることはない。」この発言はやや大げさかもしれないが、多くの企業にとっての実態であると思われる。さらに、その取締役はこう付け加えた。「全ての事業において、売上、販売数量、市場シェアとその背後にある雇用が利益よりも優先される。」実際に、とある別の調査では、自身の会社の昨年度の利益額を把握していた人は、売上額を把握していた人の6分の1しかいないという興味深い結果を示した。

ドイツ企業は主に伝統的な分野で活動しており、余剰利益を獲得可能な新たな分野ではあまり活躍していない。過剰生産能力はどの産業でも発生し、利益低迷の大きな原因の一つとなっているし、ビジネスの過度な分散や多様化も利益低迷の原因と言える。ビジネスの分散や多様化により、同一社内で利益を上げている事業があったとしても、その利益は低迷する別の事業を補填するために使われる。ThyssenKrupp 社のエレベーター事業と製鉄事業はその例と言える。また、過度な事業の分散や多様化により、個々の事業において規模の経済効果が働きにくいことも、利益低迷の原因として考えられる。これは日本にも同様の状況が当てはまり、ソニーの中で、長期間低い収益性にとどまっている携帯電話やテレビ事業は、その典型的な例として挙げられる。さらに日本やドイツにおいても、多くのスタートアップ企業が存在するが、アメリカや中国の成功したスタートアップ企業の規模に達することができるのはほんの数社に過ぎない。ベンチャーキャピタルの不足と国内市場の規模の小ささだけでなく、起業家精神の希薄さも原因として挙げられる。また、取締役会で全体的に経営責任を担うというドイツ企業の慣習も、利益志向を阻害する要因の一つである。アメリカのCEOやフランスのPDG(取締役会長兼代表取締役社長)のように、個人が大きな経営責任と権限を有する場合、企業目標としての利益の重要性は高くなる傾向にある。ドイツのように、労働者を含む異なる立場の人たちが共同で経営上の意思決定を行うシステムは、他の多くの利点を有しているかも知れないが、利益志向という点においてはマイナスに働くと考えられる。日本おいては、経営者の利益志向が弱い理由の一つに、株式の相互持合いがある。日本特有の株式の相互持合いは、近年、解消する方向にはあるものの、経営陣に対する株主からの利益追求圧力を弱める。本稿での利益の定義は「税引き後の利益」であるため、税制度も利益低迷の要因となる。日本やドイツは他の先進国と比較して法人税の負担が重く、企業による将来への投資を阻害している。

以上に挙げた利益低迷の原因に着目することで、利益拡大につながる打ち手が明確化する。例えば、利益志向の徹底、新規事業の展開、過剰生産の削減、事業領域の選択と集中、規模の経済性の向上、起業家精神の促進、経営責任と権限の集約化や株式の相互持合いの解消等である。但し、経営責任を単独ではなく、より組織的に担う慣習や、社会における利益最大化という言葉の否定的なイメージを変えるには非常に大きな困難が伴うと思われる。

ビジネスにおける成功の定義

何がビジネス上の成功であるかは、夫々の経営者自身が決めるべきだ。この点に関して、我々は一切の異論を唱えるつもりはない。但し、最後に敢えて申し上げるとすると、長期的に利益を生み出せず経営破綻した企業を、いかなる理由があったとしても、成功と呼ぶことは出来ないということである。損失や利益の低迷は、経営者や従業員のモチベーションの低下、フラストレーションの増大、活力の喪失を引き起こし、失望を生み出す結果を招く。反対に、持続可能な利益が達成できれば、モチベーションの向上、活力の増進、充実感の獲得につながる。ビジネスにおいて、一貫した利益志向に代えることができる程のメリットをもたらすものはない。至極当然のことだが、利益拡大により破綻した企業は、これまでに存在していない。

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